本学部の歴史は、1946年創設の霞ヶ浦農科大学にさかのぼります。その後、1949年に茨城県立農科大学となり、1952年に茨城大学農学部となりました。時代が大きく移り変わる中にあっても、本学部は、食、生命、環境をめぐる課題に向き合いながら、農学の教育と研究を積み重ねてまいりました。
農学は、食を支える学問であると同時に、生命を理解し、環境と向き合い、人間社会の未来を構想する学問でもあります。田畑や森林、家畜や微生物、食品や健康、地域社会や地球環境まで、その対象は驚くほど広く、しかもそれぞれが深くつながっています。農学の魅力は、そうしたつながりの中に分け入っていけるところです。知の冒険ですね。ひとつの現象を丁寧に見つめることが、やがて社会や地球全体の在り方を考えることへとつながっていく。その広がりこそが、農学という学問の豊かさでしょう。
いま、私たちは、気候変動、食料安全保障、資源・環境問題、健康をめぐる課題など、地球規模(いやもはや宇宙規模か)で進行する複雑な問題に直面しています。世界情勢も非常に不安定で、不安なニュースが日常的に報じられています。こうした難しい課題に立ち向かうには、個別の知識や技術を積み重ねるだけでは十分ではありません。生命、食、環境、社会などを相互に関係づけながら深く理解し、現実に何が起きているのかを見極め、次の時代に向けた新たな道筋を示すことが求められます。農学は、そのための総合的な知の営みであるといえるでしょう。
茨城大学農学部では、総合科学としての農学を基盤に、確かな専門知識と技術を身につけることはもとより、多様な文化や価値観を踏まえながら物事を俯瞰的に捉え、課題を多面的に考え、他者と協働して解決へ導く力を育むことを重視しています。さらに、主体的に学び続ける姿勢と高い倫理観を備え、地域社会にも国際社会にも貢献し得る人材を育てることを目指しています。知識を持つだけではなく、それをどのように生かすのかを考え続ける姿勢こそ、これからの時代において一層大切になるはずです。
本学部の学びは、教室の中だけで完結するものではありません。阿見キャンパスには附属国際フィールド農学センターが隣接し、農場を基盤とした実践的な教育研究が展開されています。生き物に触れ、作物を育て、土や水と向き合い、現場の変化を自ら確かめる。そうした経験は、農学を机上の知識ではなく、生きた学問として理解するための大切な基盤となります。さらに、2025年4月には、持続可能な農業の実現、気候変動の緩和策の策定、環境保全への貢献を目指すグリーンバイオテクノロジー研究センター(Gtech)が開設され、先端的な研究を推進する新たな拠点も整いました。
また、阿見キャンパスはつくば研究学園都市に隣接しており、近隣には多くの研究機関が集積しています。そのため、本学部の教育研究は学内に閉じることなく、多様な研究者や研究機関との共同研究へと広がっています。加えて、成田国際空港に近く、東京へのアクセスにも優れた立地は、国内外の研究交流や学生の活動の可能性を大きく広げています。農学は本来、ひとつの場所に閉じた学問ではありません。地域の現場に深く根ざしながら、同時に世界へと開かれているところに、その大きな可能性があります。
本学部は、地域に根ざした視点を大切にしながらも、視野を地域のみにとどめることはありません。地域の現場で見えてくる課題の多くは、日本全体、さらには世界へとつながる普遍的な課題でもあります。だからこそ私たちは、足元の現場を深く理解する視点と、国際的な広がりの中で課題を捉える視点の双方を重視し、地域に根ざし、世界を見据えて思考し行動できる人材の育成に力を注いでいます。
食と農、生命、環境、資源、健康をめぐる課題が、これからさらに複雑さを増していくことは間違いありません。そのような時代にあって、茨城大学農学部は、新たな知を生み出し、それを社会の未来へとつなげていく教育・研究の場であり続けたいと考えています。食と農、生命、環境の未来をともに考え、ともに切り拓いていく意欲ある皆さんを、茨城大学農学部は歓迎します。
農学部長
豊田 淳